けど初対面の男の話をそのまま信用する気イもなかったし、現にその男の種宿してるもんが別に同性の人とそんな風になってるというのんもけったいなし、何やこの男気イ触れてるのんと違うか知らん思てたら、「お疑がいになるのんも尤もですが、ここに確かな証拠あります」いうてこの書付出して見せた。
夫はそれ読んだとき、自分の妻が未だに自分欺いてたことにも不愉快感じましたけど、それよりもなお不愉快やったのんは、妻と見ず知らずの男とが自分の知らん間に兄弟の約束してるいうことやった。
第一人の女房とこんなもん取り交しといて、その女房の亭主の前いれいれいしいに見せつけながら、それに対する一言のいい訳もせんと、まるで刑事が犯罪の証拠掴んだみたいに得意そうにニヤニヤしてるこの男の気イ知れん思たら、一層むかむかして来たとこい、「あんたは此処に署名したあるのん、あんたの奥様の手エやいうことお認めになりますやろなあ」いいますのんで、「なるほど、見たとこではたしかに家内の手エのようですが、それより先に伺いたいのんは、ここに署名してる男は何処の人です」いうてやったら、「それは僕です、僕が綿貫自身です」いうて、まだその皮肉悟らんみたいに平気な顔してる。