それが夫にはまた気味わるうて、ぎょっとしながら黙って見てましたら、テーブルの前い来て、お辞儀して、「おかけなさい」ともいわんうちに今腰かけてた椅子にかけて、「さっきは僕が悪かったです。
僕は今、命にかけてもと思う人を取るか取られるか、大事な瀬戸際にあるもんですから、自分のことにばっかり眼エくらんで、あんたの感情尊重する余裕失うてました。
何も悪意あってあんなこというたんやありませんから、さっきのことは水に流して下さい」いいますよって、「それをわざわざいいに来なさったんですか」いいますと、「はあ、そうです、外い出てから考えてみたら、自分が悪かったいうこと分りましたのんで、何や知らん気イ済まんもんですから詫まりに来ました」いうて、「それは御丁寧なことです」いうてやっても、「はあ、……」いうたなり、まだモジモジと腰かけて、けったいな作り笑いして、「実はあのう、こうしてこんなことをお願いに来たりお詫びに上ったりしますのんも、よくよく苦しい立場に置かれて思案に余った結果やのんですが、どうぞ僕のこの、切ない、遣る瀬ない、泣くに泣けん胸の中を推量して下さい。