何も悪意あってあんなこというたんやありませんから、さっきのことは水に流して下さい」いいますよって、「それをわざわざいいに来なさったんですか」いいますと、「はあ、そうです、外い出てから考えてみたら、自分が悪かったいうこと分りましたのんで、何や知らん気イ済まんもんですから詫まりに来ました」いうて、「それは御丁寧なことです」いうてやっても、「はあ、……」いうたなり、まだモジモジと腰かけて、けったいな作り笑いして、「実はあのう、こうしてこんなことをお願いに来たりお詫びに上ったりしますのんも、よくよく苦しい立場に置かれて思案に余った結果やのんですが、どうぞ僕のこの、切ない、遣る瀬ない、泣くに泣けん胸の中を推量して下さい。
それさい察してもらえたらさっきの書付お貸ししてもよろしいのんです」いいますのんで、「察してくれいうて、どんな工合に察したらええのんですか」いいましたら、「正直なとこ、僕は何より、あんたが園子さんを離縁しなさるようになるのんを恐れるのんです。
そないなったら園子さんヤケ起してますます邪魔するさかい、光子と僕が結婚する望みなおのことないようになってしまう。