それも承知しましたいうて、「右正ニ御預リ致候也」と書いてやりましたら、「その後いもう一と筆書き足して下さい」いうのんで、「何を書くのんです」いうたら、「下名ハ右証書ヲ保管中左ノ条件ヲ遵守スルコトヲ誓ウ、一、下名ハ下名ノ妻ガ妻タル者ノ行為ニ悖ルコトナキヨウ責任ヲ持ッテ監督ス、二、下名ハ如何ナル場合ニオイテモ決シテ妻ヲ離縁セズ、三、下名ハ所有主ヨリ請求サレタル時ハ何時ニテモ保管中ノ証書ヲ提示シ、モシクハ返却スベキ義務アルモノトス、四、下名ガ保管中ノ証書ヲ紛失シタルトキハ、何ラカ他ニ所有主ヲ満足セシムル保証ヲ与エザル限リ、第一条及ビ第二条ニ規定シタル義務ヨリ解除セラルルコトナシ、――」それを一遍にすらすらいうのんと違て、一つ書いてしまうとまた考えて、「あ、もう一と筆願います」いうて、だんだんそんな工合に書き足さすのんで、何や、馬鹿々々しい、三百代言みたいなこという奴や思て、面白半分に好きなようなこといわして、その通り書いてやって、「ではこの後い但し書きを一つ入れますで。
――但シ、下名ノ保管スル証書ガ虚構ノ事実ニ基ケルモノナル時ハ凡ベテノ約束ヲ無効トス、――なあ、こない書いといても差支いあれしませんやろ?
いうて、はっとしたらしゅうどぎまぎしてる様子でしてんけど、さっさと構わんと書いてしもて渡してやったら、急にまた未練出たようにぐずぐずしながら、そいでも仕方なしに書付置いて行きましてんと。