前とちょっとも変ったことないばっかりか、前よりしっくりと行くのんやし、むやみに事荒立てるよりもその方が何ぼ優しか分れへん。
夫は私に無鉄砲な事しられたら、第一に心配やのんで、お腹の中では私以上に離縁恐れてて、事勿れ主義に傾いてることよう分ってますさかい、「そないに束縛するのんならほんまに家出してやるぞ」いうとこ見せて、そいからそろそろ注文持ち出して、――と、私はあらかた思案をきめて、二日かかっても三日かかってもきっとしまいにはいうこと聴かしてやるつもりで、なるべく反感挑発せんように、何いわれてもただ大人しいに無言のうちに涙ぐみながら、堅い決心隠してるみたいに割りと落ち着いてましたのんで、それが夫にはなお気味悪うて、その晩はとうど夜の明けるまで一睡もせんと傍に着いてて、便所いまで一緒に来るのんです。
そいで明くる日は一日事務所休んでしもて、御飯も二階に運ばすようにして、じっと睨み合いしたなり、ときどき顔色うかごうては、「こないしてたら体つづけへんさかい、一と寝して頭休めてから、ゆっくり考え直して御覧」とか、「とにかく死ぬやの家出するやのいうこと、思い止まるいう約束してくれ」とかいいますねんけど、私は黙っていやいやして見せるばっかりで、心のうちでは、此処まで来たらもう大丈夫や思てましてん。