夫は私に無鉄砲な事しられたら、第一に心配やのんで、お腹の中では私以上に離縁恐れてて、事勿れ主義に傾いてることよう分ってますさかい、「そないに束縛するのんならほんまに家出してやるぞ」いうとこ見せて、そいからそろそろ注文持ち出して、――と、私はあらかた思案をきめて、二日かかっても三日かかってもきっとしまいにはいうこと聴かしてやるつもりで、なるべく反感挑発せんように、何いわれてもただ大人しいに無言のうちに涙ぐみながら、堅い決心隠してるみたいに割りと落ち着いてましたのんで、それが夫にはなお気味悪うて、その晩はとうど夜の明けるまで一睡もせんと傍に着いてて、便所いまで一緒に来るのんです。
そいで明くる日は一日事務所休んでしもて、御飯も二階に運ばすようにして、じっと睨み合いしたなり、ときどき顔色うかごうては、「こないしてたら体つづけへんさかい、一と寝して頭休めてから、ゆっくり考え直して御覧」とか、「とにかく死ぬやの家出するやのいうこと、思い止まるいう約束してくれ」とかいいますねんけど、私は黙っていやいやして見せるばっかりで、心のうちでは、此処まで来たらもう大丈夫や思てましてん。
ところがそのまた明くる日の朝、夫はどうしても一時間か二時間事務所い出んならん用あるのんで、留守の間は絶対に外い出エへんし、電話もかけへんいうこと誓うか、それイヤやったら大阪い連れて行くいいますよって、「うちかてあんた一人で出したら心配やさかい附いて行きます」いいましたら、「何が心配やのんや」いいますのんで、「うちに内証で徳光さんとこいいいつけ口でもしに行かれたら、それこそ生きてられへん」いいますと、「僕かってそんな、お前に納得させへんうちに無断で不意討ち喰わすようなこと絶対にせエへん。