ここに預り証書ある」いうて、懐から出して見せて、「そら、この通り書いたあるやろ、――下名ハ下名ノ妻ガ妻タル者ノ行為ニ悖ルコトナキヨウ――」と一々箇条書き読んで聞かして、それも自分の都合悪い但し書きのとこ手エで隠してて、「柿内氏からこの書付取った以上は、もう姉ちゃんの方心配ないよって、あんたも僕に証文入れなさい」いいながら、また懐からその文案みたいなもん出して見せますねんと。
それ読んでみると、光子さんと綿貫とは永久に一心同体やとか、死を以て綿貫に従わないかんやとか、その約束に背いたらこないこないしられるやとか、何ぼでも虫のええこと書いたあって、「これでよかったら此処い名ア書いて判捺しなさい」いうのんですけど、「そんなことするのんイヤや」いうて断りなさって、「あんたみたいに何ぞいうたら証文書け証文書けいう人あれへん、そないしてはそれ種に使て人オドスつもりやねんやろ」いいなさったら、「あんたさい心変りせエへなんだら、恐がる道理ないやないか」いうて無理にもペン持たそとするのんで、「お金の借り貸しやあるまいし、証文で人の心括っとくこと出来る思てるのんやろか。
何ぞ外に目的あるねんやろ。