「なあに、園子かてその方が本望ですやろ」「そしたら三人仲好うして行きまひょなあ」と、――そんな工合にポツリポツリ耳に這入ったのんが、今考えてもよう分れしませんねんけど、二人の間でほんまに話してたもんやのか、それとも夢の中ながら想像で事実補うてたのんか、……それがあのう、……こいだけやったらみんな自分の心の迷いで根エも葉アもない幻見たんや、そんな事実あろうはずないと打ち消してしまいますねんけど、その外にもまだ忘れることの出来ん場面覚えてますし、……それも初めは阿呆らしい夢や思てましたのんが、薬さめて意識ハッキリして来るにつれて、外の夢だんだん消えてしまいますのんに、その場面だけかいって頭い焼き付いてて、疑がう余地ないようになって来ましてん。
いったい薬の分量は同じように飲んだのんですけど、私の方が長いあいだ昏睡してたいうのんは、光子さんは十一時ごろに朝昼兼帯の御飯たべはってお腹大きかったのんに、私は朝御飯もろくさまたべんと飛び出してえらい活動しましたさかい、胃袋空ッぽになってて薬完全に吸収されたのんやそうで、私の方はまだ夢うつつの境迷うてた時分、光子さんは飲んだもんみんな吐いてしまやはったお蔭で、よっぽど前から意識恢復してなさったらしいのです。
そいでも後になってからの話に、「あて知らん間アに、傍にいる人を姉ちゃんと間違うたのんや」と、そない自分でいやはりますのんで、それやったら罪は夫の方にあることになるのんですが、夫の自白聞きましたら、二日目の昼過ぎお梅どん母家の方い行ってて、夫は私の寝顔見ながら団扇で蝿追うてた、そしたら光子さんが寝惚けたように「姉ちゃん」いいながら私の方い寄って来うとしなさるのんで、眼エ覚まさしたらいかん思て、間い這入って光子さんの体抱き上げるようにして引き離して、枕外しなさったのんを直したげたり、掛け布団掛けたげたり、……そんな風にして、寝てはるとばっかり思い込んで油断してましたさかい、知らず識らず、気イ付いた時にはもうどないしても逃げること出来んようにしられてた、何せ夫ちゅうたらそないな事にかけたら経験のない、子供みたいな人ですよって、私は夫の話の方がほんまに違いない思いますねん。