和服の時は寒中でもシャツを着けないのを身だしなみの一つにしている彼は、長襦袢の裏と皮膚とのあわいに清涼な風の孕むのを覚えながら内ぶところへ両手を入れていた。
車の中は時間が半ぱであるせいか疎らな客がめいめいゆっくりと席を取り、真新しい白ペンキの天井の下は空気が隅まで透き徹っていて、並んでいる人たちの顔までが皆健康そうに、朗らかに明るい。
美佐子はそれらの顔の中にわざと夫と向い側にかけて鼻のあたまを毛皮の襟巻のふかふかとした中へ埋める程にして、縮刷本の水沫集を読んでいるのである。
和服の時は寒中でもシャツを着けないのを身だしなみの一つにしている彼は、長襦袢の裏と皮膚とのあわいに清涼な風の孕むのを覚えながら内ぶところへ両手を入れていた。
車の中は時間が半ぱであるせいか疎らな客がめいめいゆっくりと席を取り、真新しい白ペンキの天井の下は空気が隅まで透き徹っていて、並んでいる人たちの顔までが皆健康そうに、朗らかに明るい。
美佐子はそれらの顔の中にわざと夫と向い側にかけて鼻のあたまを毛皮の襟巻のふかふかとした中へ埋める程にして、縮刷本の水沫集を読んでいるのである。