車の中は時間が半ぱであるせいか疎らな客がめいめいゆっくりと席を取り、真新しい白ペンキの天井の下は空気が隅まで透き徹っていて、並んでいる人たちの顔までが皆健康そうに、朗らかに明るい。
美佐子はそれらの顔の中にわざと夫と向い側にかけて鼻のあたまを毛皮の襟巻のふかふかとした中へ埋める程にして、縮刷本の水沫集を読んでいるのである。
買い立ての白クロースの、ブリキのようにピンと尖った表紙の背を掴んでいる指には網目に編んだサファイア色の絹の手袋が篏まっていて、こまかい網の目の隙間から、研かれた爪がチラチラと覗いていた。