夫婦は互に衣を隔てて体温を感じ合うことが窮屈であるばかりでなく、今では寧ろしてはならないことのように、不道徳なようにさえ思うのである。
そして一つの車室のうちに向い合って置かれるだけでも相手の顔が邪魔になるので、美佐子はいつも眼の向けどころを作るために何かしら読む物を用意していて、席がきまると直ぐに自分の鼻先へ屏風を立ててしまうのである。
二人は梅田の終点で降りて別々に持っている回数券を渡して、申し合わせたように二三歩離れて歩きながら駅の前の広場へ出ると、夫が先に、妻がその後から黙ってタキシーの箱の中へ収まって、始めて夫婦らしく肩を並べた。