見わたしたところ、小屋は相当の広さであるのに四分通りしか入りがないので、場内の空気は街頭を流れるすうすうした風と変りがなく、舞台に動いている人形までが首をちぢめて、淋しく、あじきなく、見るから哀れに、それが太夫の沈んだ声と三絃の音色とに不思議な調和を保っていた。
殆ど平土間の三分の二まではガラ空きになっていてほんの舞台に近い方に人がかたまっている中に、顱頂部の禿げた老人の頭とつやつやしいお久の円髷とが遠くの方から眼についていたが、渡りを渡って降りて来る二人にお久はそれと心づくと、
「お越しやす」