べっこう色の水牛の撥を畳の上にお久が置いたとき、老人は宿の浴衣の上へ、五月と云うのに藍微塵の葛織の袷羽織を引っかけて、とろ火にかけてある錫の徳利にさわってみては、例の朱塗りの杯を前に、気長に酒のあたたまるのを待っていたが、
「成る程、要さんは江戸っ児だから八軒家は知らないだろう」
と云いながら、火鉢の上の銚子を取った。
べっこう色の水牛の撥を畳の上にお久が置いたとき、老人は宿の浴衣の上へ、五月と云うのに藍微塵の葛織の袷羽織を引っかけて、とろ火にかけてある錫の徳利にさわってみては、例の朱塗りの杯を前に、気長に酒のあたたまるのを待っていたが、
「成る程、要さんは江戸っ児だから八軒家は知らないだろう」
と云いながら、火鉢の上の銚子を取った。