それがこの頃は夫婦が無関心になり切ってしまって互の存在を意に介しなくなった結果、同じ部屋でも平気でめいめいが安眠するような修業が出来、自然一泊旅行に出かける必要もなくなったのであるが、暫くぶりでひとりで寝てみると、廊下を越えてきこえて来る老人夫婦の忍びやかな話ごえの方が、今の妻よりはずっと眠りの妨げになった。
と云うのは、さし向いになるとお久に物を云う老人の調子が、まるで別人のように優しく、声音までが変ってしまって、―――それもはっきり云うならいいけれど、向うでは又要に遠慮があるのであろう、ひそひそとあたりを憚るように、さも睡たそうに、半分口のうちで、「ふんふん」と甘えるように云うのである。
そこへ持って来て、ぱたん、ぱたんと、お久が足腰を揉んでいる音が枕もとへ響いて来て、それがなかなか止みそうもない。