老人が何かくどくど云うのに対して、お久の方は言葉少なに「へえへえ」と聞いているらしく、ときどき「何々どす」と答えるそのどすと云う語尾だけがぼんやり聞き取れる。
要は他人の夫婦仲の睦まじいのを見ると、自分たちの身に引きくらべてその幸福が羨ましくもあり、他人事ながら嬉しくもあって、決してイヤな気は起さないのが常だけれど、この老人の場合のように三十以上も歳の違った組み合わせのこう云う様子を見せられるのは、予め覚悟していたとは云え、やっぱり多少迷惑でないことはない。
まして老人が自分の肉身の親であったら、さぞかし浅ましい気がするであろうと、美佐子がお久を憎む感情が今更分って来るのであった。