たとえばこの町にしても、電線と、電信柱と、ペンキ塗りの看板と、ところどころの飾り窓とを気にしなければ、西鶴の浮世草紙の挿絵にあるような町家を至る所に見ることが出来る。
軒の垂木までも漆喰いで包んだ土蔵作りの店の構え、太い角材を惜しげもなく使った頑丈な出格子、重い丸瓦でどっしりとおさえた本葺きの甍、「うるし」「醤油」「油」などと記した文字の消えかかっている欅の看板、土間の突きあたりに吊ってある屋号を染め抜いた紺暖簾、―――老人の云いぐさではないけれども、そう云うものはどんなに日本の古い町に情趣を与えているか知れない。
要は青空をうしろにして白く冴えている壁の色に、しみじみ心が吸い取られるような気がした。