今人形師と名のつく者は阿波の徳島在に住んでいる天狗久と、その弟子の天狗弁と、由良の港にいる由良亀との三人しかないが、そのうちほんとうに腕の出来ている天狗久は、もう六十か七十になる爺さんで、もしこの人が死んでしまえば永久にこの技術は亡びるであろう。
天狗弁は大阪へ出て文楽の楽屋を手伝っているけれど、仕事というのは昔からある人形の直しをしたり、胡粉を塗りかえたりするくらいに過ぎない。
由良亀も先代の男はいいものを作ったが、今の代となってからは理髪師か何かを本業として、その片手間に矢張つくろいをするだけである。