それに舞台の照明と云うのが、脚光もなければ特別な装置があるのでもなく、同じ裸電燈が天井から垂れているばかりなので、やがて太功記十段目が開くと、人形の顔の胡粉が一度にきらきらと反射し出して、十次郎も初菊もまともに見ることが出来ないような奇観を呈した。
しかし太夫はだんだん本職に近いような上手なのが床に上る。
それを一方の桟敷から、「どうだ、わしの村の太夫はうまいもんだろう、みんな静かに聞いてくれ」と、同じ村の人らしいのが声援すると、「己の村の何々太夫はもっとうまいぞ、好い加減に引っ込んでくれ」と、一方の桟敷から罵声を飛ばす。