いつもは声を聞きつけると、二十三四貫はありそうな太った体をもてあつかいながら、ずしりずしり二階を降りて来て、おあいその一つも云うのであるのに、今日はどうしたのか振り向きもしないで庭を見ている。
開港当時に建てられたかと思われる、天井の高い、ひっそりと暗い、間取りのゆったりした家で、昔は立派な洋館だったのに違いないのが、久しく手入れをしないままに化け物屋敷のように荒れているけれど、廊下から見るとその雑草の生い茂った裏庭にも五月の青葉の明るさが充ちて、逆光線を受けているかみさんの灰色のちぢれ毛を、一とすじ二たすじ銀色に透き徹らせている。
「どうしたんだい、おかみさんは?