有りていに云えば、彼の方でも美佐子の口にする「須磨」と云うのが果してほんとうの須磨であるのか、それとももっと近い所に適当な場所を見つけてあるのか、ときどき好奇心を感ずることはあるにしてからが、強いて知ろうとは欲しないし、なるべくならば知らないで済むことを願っているのと同じように、自分がいつ何処へ行くと云うことは曖昧にして置きたかった。
そしてそう云う心づかいから、女の部屋で服を着る前にいつもボーイに風呂を立てさせたものであったが、そのお白粉はべっとり鬢付け油のように粘り着くたちのものだと見えて、余程ごしごしこすらなければ、洗っても洗っても落ちないのであった。
彼はしばしばこの女の全身の甘皮が、自分の肌へ肉襦袢のようにすっぽり被さってしまった気がして、それを残らず洗い落すのに多少の未練を感じながら、やっぱり自分が思ったよりも彼女を愛していることを意識しないではいられなかった。