彼女の口にする一つの単語、一つの語尾にも「斯波」と云う家の持ち味がこびり着いていないものはないのに、それが夫の眼の前で新しい云い廻しに取り変えられて行きつつある、―――要は別離の悲しみがこう云う方面から襲って来ようとは思い設けてもいなかったので、もう直ぐ後に迫って来ている最後の場面の苦しさが今から予想されるのであった。
だが考えれば、嘗て自分の妻たりし女は既にこの世にはいないのではないか。
今さし向いに据わっている「美佐子」は全く別な人間になっているのではないか。
彼女の口にする一つの単語、一つの語尾にも「斯波」と云う家の持ち味がこびり着いていないものはないのに、それが夫の眼の前で新しい云い廻しに取り変えられて行きつつある、―――要は別離の悲しみがこう云う方面から襲って来ようとは思い設けてもいなかったので、もう直ぐ後に迫って来ている最後の場面の苦しさが今から予想されるのであった。
だが考えれば、嘗て自分の妻たりし女は既にこの世にはいないのではないか。
今さし向いに据わっている「美佐子」は全く別な人間になっているのではないか。