妻は強気でいるようなものの、そのひた向きな感情の裏には一と入脆い弱気が心の根を喰っていて、ほんのちょっとした物のはずみに泣きくずおれてしまいそうに思える。
そうなることを孰方も恐れていればこそ、そんな機会を作らないように互に避けているのではあるが、現にこうして相対している今の場合でも、話の持って行きよう次第で千里の彼方に飛び去ったものが一瞬のうちに帰って来ないものでもない。
要は彼女が今日になって老人の裁断に任せるだろうとは夢にも予期していないながら、もしそうなったら自分もそれに従うより外にないと云うような、希望ともあきらめともつかないものが何処か胸の奥の方に潜んでいるのを、我から不思議にも疎ましくも感じた。