要はここの風呂へ這入るのは久し振りだった。
上方に普通な長州風呂と云う奴で、一人の体が満足には漬からないくらい小さな釜の、周りの鉄の焼けて来るのが東京風のゆっくりとした木製の湯槽に馴れた者には肌ざわりが気味悪く、なんだか「風呂へ這入った」と云う心持がしないのに、まして湯殿がおそろしく陰気な建て方で、高いところに無双窓があるだけだから昼間でも厭にうすぐらい。
自分の家でタイル張りの浴室にばかり這入りつけているせいか穴蔵へでも入れられたようで、その上丁子を煎じてあるのが、垢だらけに濁った薬湯のような連想を起させるのである。