わたしの乗った船が洲に漕ぎ寄せたとき男山はあだかもその絵にあるようにまんまるな月を背中にして鬱蒼とした木々の繁みがびろうどのようなつやを含み、まだ何処やらに夕ばえの色が残っている中空に暗く濃く黒ずみわたっていた。
わたしは、さあこちらの船へ乗って下さいと洲のもう一方の岸で船頭が招いているのを、いや、いずれあとで乗せてもらうがしばらく此処で川風に吹かれて行きたいからとそういい捨てると露にしめった雑草の中を蹈みしだきながらひとりでその洲の剣先の方へ歩いて行って蘆の生えている汀のあたりにうずくまった。
まことに此処は中流に船を浮かべたのも同じで月下によこたわる両岸のながめをほしいままにすることが出来るのである。