洞庭湖の杜詩や琵琶行の文句や赤壁の賦の一節など、長いこと想い出すおりもなかった耳ざわりのいい漢文のことばがおのずから朗々たるひびきを以て唇にのぼって来る。
そういえば「あらはれわたるよどの川舟」と景樹が詠んでいるようにむかしはこういう晩にも三十石船をはじめとして沢山の船がここを上下していたのであろうが今はあの渡船がたまに五、六人の客を運んでいる外にはまったく船らしいものの影もみえない。
わたしは提げてきた正宗の罎を口につけて喇叭飲みしながら潯陽江頭夜送客、楓葉荻花秋瑟々と酔いの発するままにこえを挙げて吟じた。