みれば左の手に瓢箪を持ち右の手にちいさな塗り物の盃を持ってわたしに突きつけているのである。
さきほど罎をお捨てになったようでござりましたがこちらにはまだこれだけござりますといいながらひょうたんを振ってみせて、さ、へたな謡いをきいていただく代りにこれを受けて下さりませ、せっかくの酔いがおさめになっては興がなくなります、ここは川風がつめとうござりますからちと召し上りすごしても気づかいはござりますまいと否応なしにその盃を受けさせて、とく、とく、とく、と、ここちよい音をさせてつぐのである。
これはかたじけない、ではえんりょなく戴きますといって、わたしはその一杯をきよく乾した。