それに美声というほどでもなく音量も乏しいのであるが、さびをふくんだ、熟練を積んだこえではある。
とにかく謡いぶりが落ちついているところをみると相当に年数をかけているのではあろう。
しかしそんなことよりも見も知らぬ人のまえでこんな工合に気やすくうたい出してうたうと直ぐにその謡っているものの世界へ己れを没入させてしまい何の雑念にも煩わされないといった風な飄逸な心境がきいているうちに自然とこちらへのりうつるので、わざは上達しないでもこういう心境をやしなうことが出来るものならば遊芸をならうということも徒爾ではないように思われてくる。