時に、と、こんどはわたしが尋ねた、あなたは大阪のお方であればこのへんの地理や歴史にお委しいことと存じます、とすると、お伺いしたいのはいまわたしどもがこうしているこの洲のあたりにもむかしは江口の君のような遊女どもが舟を浮かべていたのではないでしょうか、この月に対してわたしの眼前にほうふつと現れてくるものは何よりもその女どものまぼろしなのです、わたしはさっきからそのまぼろしを追うこころを歌にしようとしていたのですけれどうまいぐあいに纏まらないので困っていたのです。
されば、誰しも人のおもうところは似たようなものでござりますなとその男は感に堪えたようにいって、いまわたくしもそれと同じようなことをかんがえておりました。
わたくしもまたこの月を見まして過ぎ去った世のまぼろしをえがいていたのでござりますとしみじみとそういうのである。