さてそのひょうたんの酒をきれいに湑んでしまってからその男は語りつぐのであった。
父がそれをわたくしに話してくれましたのはまいとし十五夜の晩にその堤をあるきながら子供にこんなことをいってきかせても分るまいけれどもいまにお前も成人するときがくるのだからよく己のいったことをおぼえていてそのときになっておもい出してみてくれ、己もお前を子供だと思わずに大人にきいてもらうつもりではなしをするとそういってそれをいうときはいつもたいへん真顔になって、どうかすると自分とおなじ年ごろの朋輩を相手にしているようなもののいいかたをするのでござりました。
そんな場合父はあの別荘の女あるじのことを「あのお方」といったり「お遊様」といったりしてお遊さまのことをわすれずにいておくれよ、己がこうして毎年おまえをつれてくるのはあのお方の様子をお前におぼえておいてもらいたいからだと涙ぐんだこえでいうのでござりました。