そんな場合父はあの別荘の女あるじのことを「あのお方」といったり「お遊様」といったりしてお遊さまのことをわすれずにいておくれよ、己がこうして毎年おまえをつれてくるのはあのお方の様子をお前におぼえておいてもらいたいからだと涙ぐんだこえでいうのでござりました。
わたくしはまだ父のいうことがじゅうぶんには会得できませなんだがそれでも子供は好奇心が強うござりますし父の熱心にうごかされて一生懸命に聴こう聴こうといたしましたのでこうなんとなく気分がつたわってまいりましておぼろげにわかったようなかんじがしたのでござります。
で、そのお遊さまという人はもと大阪の小曾部という家のむすめでござりましてそれが粥川という家へ器量のぞみで貰われて行きましたのが十七のとしだったそうにござります。