お遊さんのいかにも子供らしい我がままの例を申しましょうならあるとき父にもうよいというまで息をこらえていてほしいといって手を父の鼻のあなの前にかざすのでござりました。
ちちはいっしょけんめいにがまんをしておりましたけれどもようこらえなくなりまして少しいきを洩らしましたらまだよいといわなんだのにとえらくむずかり出しましてそんならといって指でくちびるをとじ合わせたり、ちいさな紅い塩瀬の袱紗を二つにたたんで両端を持ってぴったり口にふたをするのでござりましたがそういう時はいつもの童顔が幼稚園の子供の顔のようにみえて二十を越した人のようにはおもえなんだと申します。
またあるときはそう顔を見んとおいてほしい、両手をついて首をたれたままかしこまっていてほしいといいましたり、笑わんといてごらんといってあごの下や横腹をこそばゆがらせたり痛いということを口にしてはならぬといってここかしこを抓りましたりそんないたずらをしますのがいたって好きなのでござりましてわたしはねむってもあんさんはねむったらあかん、ねむくなったらじっとわたしの寝顔をながめてしんぼうしているがよいといいながら自分はすやすやとまどろんでしまいますので父もうつらうつらし出してついゆめごこちにさそい込まれておりましたらいつのまにやらめをさまして耳のあなへいきを吹き入れたりかんぜよりをこしらえて顔じゅうをこそぐったりしてむりにおこしてしまうのでござりました。