父と云う人は嘗ては五奉行の一人として天下に並びない権勢を謳われ、今度も江戸の内府どのを相手に上方勢を寄せ集めて大きな軍を起したほどの偉いお方であり、母や自分を立派な城に住まわせて大勢の腰元を冊かせてくれ、大名のお部屋様やお姫様として幸福な月日を送らせて下すった有難いお人には違いなかったが、親としての親しみを感ずるのには、彼女から見て餘りにその父が高過ぎもし、隔たり過ぎてもいなかったであろうか。
彼女が物心ついてからは、たま/\城に帰っている時でも上方や江戸の形勢を案じて侍たちと密議するような日が多く、ついぞゆっくり可愛がっても貰えなかった忙しそうな父親ではなかったか。
そう云う父は娘の眼にも一箇の「英雄」と映るばかりで、情愛よりはむしろ畏敬を感じなかったか。