お父様を捕えた者には褒美をやるなどゝ申しましても、なんの、なんの、御領内の百姓たちは御恩を受けた者共ばかりでござりますもの、舊主に縄をかけるような勿体ないことを誰が致しましょう」
それ故力を落してはならぬ、今にお会いになれる時節が参りますと、そう云って娘を慰める乳母も、心からそう思っているのでないことは明かであったが、大津の町へ這入ってみると、治部少輔のありかを知っていると云う立派な武士がきのう石山で捕われたという噂が立っていた。
人々が集まって話している場所へそれとなく近づいて立ち聞きをしたり、物識り顔な老人などを掴まえて尋ねたりしたところでは、それは小幡助六郎信世と云って、二千石を戴いていた家中の武士に違いなかった。