愚僧がこの歌を詠みましたのは、昨日や今日のことではござりませぬ、思えばもう六年の昔、忘れもせぬ文禄乙未のとしの秋、関白殿の御一族がお果てなされた時のことでござりましたが、―――」
盲人と云うものは人に向って語るときでも相手の顔を見ることが出来ないのであるから、いつでも独りごとを云っているようなものかも知れない。
従って乳母は、行者が勝手にしゃべりつゞけている隙をうかゞって、そうっとその場を逃れようと思えば逃れられた訳だけれども、何かしら此の法師のひたむきな物の云い方が、彼女の足をしばらくそこへ引き止めていたので、それは幼い娘とてもそうであった。