娘は行者の云ったことを大人になるまで記憶していて、後に追い/\理解するようになったのであって、その時は彼の感傷的な口調が何を語っているのだかはっきり呑み込めなかったのであるが、しかし恐いと思う心が半分と、いったい何者であろうと云う好奇心が半分とで、乳母の袂をしっかり握りしめながら行者の顔を見上げると、それが今はもう全く月の蔭になって、そのうしろの一段高い所にある父の首と大して変らぬように見えた。
「―――のう、もし、あの時のことは、そこにおいでのお姫様は御存知ないかも知れませぬが、お女中は覚えておいでなさりましょう。
それ、その三条の橋の下に、関白殿のお首が懸けられておりましたが、そこへ御一族のお子様がたや上﨟様がたをお引き出しなされて、何の罪科もない者を一人々々お斬りなされたのじゃ。