然るにそれから間もなくのこと、或る夜愚僧を御前へお召しになりまして、人を遠ざけて仰せられますのには、その方を見込んで密々に申し附けたい大事がある、某ちかごろ名護屋のたよりを承るに、勿体なくも淀君さまには御懐姙なされた由であるが、それにつけて心がゝりなのは聚楽におわします関白殿。
今日本の諸大名は海を越えて此の国へ押し寄せ、太閤殿下さえはる/″\御動座遊ばしていらっしゃるのに、あのお方は天下の政務を掌る御身として、殿下のお留守を幸いに驕慢の沙汰が多く、日々狂おしい御乱行に耽っていらっしゃるとのこと、委細の様子は、たとい三成此の地に在って幾千里の山河を隔つるとも、やわか存ぜぬことがあろうぞ。
しかし今迄はよいけれども、萬一若君御誕生とも相成らば此の後殿下との御仲は如何あるべき。