このお方は、御台様の連れ子でいらっしゃいまして、当時は十一におなりなされ、お顔だちから姿かたちまでお母様にそっくりでいらっしゃいましたが、御台様としましては、お父様のない此のお子をどんなにかいとおしくも、御不便にも思し召したのでござりましょう。
ほんに、そう云えば、りっぱな御殿におすまいなされていらっしゃいましても、ほんとうのところは親一人子一人のたよりない方々でござりましたから、たがいに片時もお離れなさらず、何かにつけて慰め合うていらっしゃいましたのもお道理でござります。
それにまた、どう云ういんねんか、此のお二た方は愚僧をたいそう御贔屓にして下されまして、辰一を呼べ、退屈ざましに何か聴かしてと、有難い仰せを戴いたことがたび/\でござりましたが、勾当と云う位は持っておりましてもそれは名ばかりでござりまして、もとより長年研きをかけました藝ではなく、お耻かしい技に過ぎませぬのに、どうしてお気に召しましたのやら。