常陸介は又重ねて、そう云うことでござりますなら、兎に角某に三日のお暇を下さりませ、その間に大坂のお城へ忍び込み、何にてもあれ、御天守にあるお道具を一と品取って参りましてお目に懸けるでござりましょう、その證拠を御覧なされました上で、御決心を遊ばしてはと、そう申して御前を罷り出でました。
殿は、いや/\、覚束ないぞ、もし仕損じて捕えられたら何とする、止せ/\と仰っしゃったそうにござりますが、常陸介はそのゝち所労と申し触らして出仕を止め、直ぐに大坂へ罷り下ったのでござります。
然るにその夜太閤殿下は伏見へ御上洛なさるところでござりまして、宿直の者たちが厳しく番をいたしており、方々の御門を固めていたのでござりましたが、難なく忍び入りまして、奥御殿の様子を窺いますと、女房達の話声がして、もう上様は枚方あたりまでお上りになった時分であろう、などゝ云うのが聞えて参りましたので、さては御運の強き大将軍にてましますことよ、今夜此の城においでゞあったらお命を申し受けようものをと、歯噛みをしたのでござりました。