左様でござります、それは聞かぬでもござりませぬが、たゞの一度も自分の眼を以て突き止めたことはござりませぬ故、噂のまゝを申し上げるのも如何と存じ、控えていたのでござります、と申し上げましたら、黙れ、左衛門、たとい一片の噂なりとも、左様な御乱行を聞き込みながら、なぜ一往は知らせて来ぬぞ、又不確かと思うなら、なぜ何処までも詮索せぬぞ、己れはそのような不覚者ではなかったのに、いつしか心までも座頭になりおったか、それともそちは三成が恩義を忘れ、関白殿へ返り忠を致す所存かと、お声をあらゝげて仰っしゃいますので、愚僧はハッと平伏いたし、これは存じも寄らぬこと、緩怠のお咎めにつきましては申訳もござりませぬが、返り忠とは以ての外のお疑い、お情ない仰せでござります、憚りながら左衛門尉、姿は盲人を装うておりましょうとも、武士の性根を失いましょうや、たゞしかしながら、いかに間諜とは申せ、うかとしたことを申し上げて、太閤殿下御親子の間を争わせ、天下の大乱を引き起すようなことを致しましては、それこそ忠義の穿き違えであると存じましたばかりに、努めて口数を慎んでいたのでござりますが、以来は必ず、些細なことにても胡乱と思う節があれば御注進申し上げるでございましょうと、額をすりつけてお詑びをいたし、よう/\お許しを戴いたのでござりました」
彼はそこまで話して来ると、何やら躊躇の色を浮かべ、云いにくそうに幾度となく口籠りながら切り出すのであった。
「したが、お姫様、ばあや様、よう聞いて下さりませ、此の順慶と云う法師、いや、下妻左衛門尉と申した治部少輔殿の家来はな、折角君のお見出しにあずかりましたけれども、もと/\間諜と云うような役目には向かない男だったのでござりましょう。