けれどもそれで、ほんとうに何の疚しいところもなく安心していたかと申しますと、もう早くから心のおくに何か自分にも分らない疑いの影がきざしまして、とき/″\それに苦しめられたことがないでもござりませなんだ。
その時分、愚僧はしば/\自分が眼あきでありながら眼くらの真似をしていることに、云い知れぬ恐ろしさを覚えたものでござります。
それはお上を欺いているのが相済まないと云う心持、それもあったのでござりますが、しかしそんなことよりも、此の眼が見えるのがよくないのだ、瞳に映る世界と云うものが何かしら自分に害をするのだ、と云う懸念が、御前に控えておりますときに、取り分け御台様のお側に近うおりますときに、何処からともなく湧いて参りまして、そのために斯う、体がわな/\ふるえ出すことがござりました。