斯様に申しましたゞけでは、お分りになりますまいけれども、愚僧は暫く朝鮮国におりまして異郷の空の雨風に曝され、明け暮れ征馬のいなゝきと鉄炮の音ばかりを聞き馴れておりましたのが、久方ぶりに都へ上って参りまして、ついぞ生れてから見たこともない奥御殿の、きらびやかなお座敷へ出仕したのでござります。
戦場に於いてさま/″\な艱難を忍びますことは武士の常でござりますから、左程骨身にはこたえませぬが、荒々しいことや凄じいことより知らぬ者が蘭麝のかおりなまめかしい御前へ出ましては、勝手が違うて窮屈な心地がいたし、立居が固くなりますのに、まして見える眼を見えないように装うている辛さを、お察しなされて下さりませ。
これがほんとうのめくらであるなら、なか/\気が楽でござりましょうに、なまじいに眼が見えますと、見まいとしてもあたりのものを見ない訳には参りませぬ。