これがほんとうのめくらであるなら、なか/\気が楽でござりましょうに、なまじいに眼が見えますと、見まいとしてもあたりのものを見ない訳には参りませぬ。
そのうえ見るとは申しましても、まわりの人に悟られぬように薄眼を開けて、睫毛と睫毛の間から、ほんの僅かな幅のものを、戸の節穴から覗くくらいにぼんやり見るだけでござりますから、物の色あいや形などが、一度にひろ/″\と見るのとは様子が違うておりまして、そのために尚、金銀をちりばめました壁や、襖や、調度のたぐいや、皆様方のお召しになっていらっしゃる唐織や綾錦などが、ひとしお美しく、此の世のものとも覚えぬように瞳に映ったのでござります。
愚僧は何処へ眼を向けましても、見えるものゝ結構なのに胆を消し、玉の階、黄金の梁とはこう云う御殿のことであろうかと、夢に夢見る思いがいたして、ゆくりなくも斯様な所へ御奉公に罷り出た身のなりゆきの不思議さを驚くばかりでござりましたが、まあそれはよいとしましても、どうかした時に御台様のお姿が眼瞼の中へ這入って参りますと、何やら息が詰まるようになりまして、そのちら/\する眩いお顔を長くは視つめていることが出来ませなんだ。