「もし、………ついふつゝかな言葉づかいをいたしましたが、仮にも愚僧としたことが、武士たる者の嗜みを忘れてみめよきお方の御器量に迷い、本心を失うた、などゝ申すのではござりませぬから、思いちがいをして下さりますな。
あのお方はやんごとないお生れ、たといどのようにお美しゅういらっしゃいましたとて、愚僧に何のかゝわりがござりましょうぞ。
なれども宿世の因縁と申しましょうか、始めてお目通りを許されました日から、拙い藝が不思議に御意に叶いまして、たび/\召されますうちに、不仕合わせなお身の上のことがだん/\分って参りますにつれて、不便と申し上げましては勿体のうござりますけれども、あゝ、いかなる金殿玉楼の奥にも人の憂いはあるものよと、心ひそかにおいとおしゅう存じていたのでござりました」