なれども宿世の因縁と申しましょうか、始めてお目通りを許されました日から、拙い藝が不思議に御意に叶いまして、たび/\召されますうちに、不仕合わせなお身の上のことがだん/\分って参りますにつれて、不便と申し上げましては勿体のうござりますけれども、あゝ、いかなる金殿玉楼の奥にも人の憂いはあるものよと、心ひそかにおいとおしゅう存じていたのでござりました」
扨、今、順慶の言葉の中にある「不仕合わせなお身の上のこと」とは何を意味するのであろうか。
蓋し此の夫人、秀次の正室であった一の台の局の不幸が、やがて順慶の不幸の因となったことを思えば、これこそ此の物語中の主要な部分であるべきだけれども、而も「聞書」はその肝腎な事実について餘り多くを語っていない。