そうしてひそかに云うのには、此のたび爾々の事が出来て、今某はそのお使に参るのである、もし幸いに秀次公伏見へお越し下さらばよいが、下さらぬ時は刺し違えて相果てるぞ、ついては某、つね/″\そちの厄介になったが、此の期に臨み礼をする暇もない、依って此の状を忰信濃守の方へ届け候え、必ず金銀が調うであろう、此の事人には露もらし候なと、堅く約束して聚楽へ急いだ。
使者を迎えた秀次の方では、太閤の命に従うべきか否かについて進退に迷い、重臣白井備後守、木村常陸介、熊谷大膳亮の三人を一と間へ呼び入れて凝議したが、意見がまち/\で容易に決しかねていた。
備後が云うには、今此の城をお開きなさるのは、中々勿体のうござります、某按ずるに、我等三人のうち一人を伏見へ遣わされ、一往理をお盡しなされては如何、もしその上にも御承引なく、討手が向って来るようであったら、我々真っ先に討って出て花々しき合戦をなし、叶わぬ時節到来せば、その時お腹を召され給うとも何の仔細か候べきと云う。