いや/\、たとい鬼神のお働きをなされましょうとも、此処を駈け抜けることは叶いませぬ、まだ此の先にいくらでも人数が伏せてござりましょうから、雑兵の手におかゝりなされて犬死なさるのは必定でござります、先ず山崎にお越しなされて、夜に入ってからお計らいなさりませ、さらずば一度北国へお下りなされ、城に楯籠って国々の味方をお集めなさりませと、そう云われて常陸介も拠んどころなく、東寺を西へ、向うの明神へかゝり、山崎の宝寺に日頃誼みのある僧を頼って行ったが、寺から伏見へ訴え出たので、頓て検使が立ち、主人秀次と同じ七月の十五日に腹を切った。
子息の木村志摩助も北山辺に忍んでいたのが、父の最期を聞いて、これも同じ日に寺町の正行寺で自害をした。
熊谷大膳は嵯峨の二尊院に隠れていたところへ、かねて入魂にしていた前田徳善院の家老の松田勝右衛門と云う者が、十五日に訪ねて来た。