私はさあらぬ体を装って、子供の時からこんな工合におり/\患うことがありますが、半月も養生すればいつも直ってしまいますから、今度も日数を待っておりましょう、何も大事なことなんぞ思ってはいませんと云いましたけれども、薬師は御前へ出て、あれは病気とは覚えませぬ、身に大事を持っている人か、さもなかったら、昔ならまあ恋とでも云うわずらいでございましょうと申し上げたと見えるのです。
すると、恋なら今の世にだってないことはあるまい、糟屋の胸のうちを探り出したいものだと云う将軍の仰せに、それなら佐々木三郎左衛門が一番親しくしておりますから、あれをおつかわしになりましたらと申し上げる者があったりしまして、やがてその佐々木が御前へ召されて仰せを受け、見舞いにやって来ましたが、わたしの寝ている枕もとへすわると、恨みを含んだ口ぶりで、日頃から朋輩の多い中でも兄弟のように契っていたものを、これほどの患いだったらなぜ知らしてくれなかったと云いますので、なあに、心配をかけるようないたつきではない、たゞ一人ある母にさえ知らせないくらいだから、お恨みは御尤もだけれども、悪く思ってくれては困る、此の上重くなるような時には御知らせするから、そうこと/″\しく云わないで帰って下さい、私の身よりは御所の勤めが大切ではないかと云いますと、まあ看病させてくれと云って、四五日傍を離れないで、心の中を尋ねるのです、私も暫くは包み隠していましたが、あまり親切にしてくれますので有りのまゝを打ち明けましたら、佐々木は聞いて、さては御分は恋をしておられるのだな、それなら訳はないと云って、御所へ参って申し上げると、成るほどそうか、そんなことなら容易いことだと仰っしゃって、忝くも御所様が御自身で御文をお書きになり、佐々木を御使にして二条殿へ申し送って下さいました。
ところが二条殿の御返事に、あれは尾上と申す女房ですから地下へ下す訳には行かないが、その男を此方へ寄越して下さいと云うお文があって、それを御所から私の宿へわざ/\届けて下すったのです。