私はその女の有様をつく/″\と見るにつけ、あゝ、浅ましい、前世に佛法の結縁があればこそ人とも生れたのだろうが、たま/\人間を受けた時に佛の道を修行して善人とまではならなくとも、せめて世の中の情をでも知っていることか、こんな大悪人になって、夜晝思うことは人を殺し物を盗むたくみより外にはなく、ついには因果が廻って来て無間地獄へ堕ちるのは分っているのに、悪業を作っては露の命をつなぎ、夢を夢とも知らないと云うのは我が身ながらあいそが盡きる。
そればかりでなく、妻なる女の心の中の無慈悲なことはどうであろう、こう云う女と枕を並べて契っていたかと思えば返す/″\も口惜しい、どれほど恐ろしい女の料簡かと気がつきましたら、あゝ、飛んだことをしてしまった、何しにあの上﨟を殺したのか、お痛わしいことをしたものだと、消えも入りたい心地でしたが、いや/\、たゞ歎いている場合ではない、これを菩提の善知識として髻を切り、あの上﨟のおん跡を弔おう、そして我が身の菩提をも願おうと、急に決心がつきましたので、その夜のうちに一条北小路へ行きまして玄惠法印の御弟子になり、名を玄竹と附けていたゞいて、間もなく此の御山へ上ったと云う訳なのです。
―――さあ、一分始終は只今申し上げた通りですが、その僧ははんかいの方を向いて、さぞ無念に思し召すでしょう、いかようにも愚僧を殺して下さいまし、身をずた/\に斬って下すっても更にお恨みとは思いませぬ、たゞし愚僧をお斬りになったら、あの上﨟のおん為めには却って業因をお作りになるようなものかと思います、命が惜しくてかようなことを申すのではないことは、三宝も御覧になっていらっしゃるでしょう、兎に角申し上げてしまったからには、どうなりともお計らいにお任せします、と、そう云って衣の袖をしぼるのであった。