別れる時に、「では直き帰って来る。
と云い捨てゝ、人目にかゝらぬように、わざと往き来の淋しい崎嶇たる岨道を、八瀬の方へ辿って行った千手丸の後姿が、夜な/\彼の夢の中で、小さく/\遠くへ消えた。
今になって考えれば、見す/\命を落す事に極まって居たものを、無理にも断念させなかったのは、自分にも罪があるような気がするけれども、あの折自分が一緒に行ったら、どんな禍が待って居たゞろうと思うと、彼は己れの幸運を祝福せずには居られなかった。
別れる時に、「では直き帰って来る。
と云い捨てゝ、人目にかゝらぬように、わざと往き来の淋しい崎嶇たる岨道を、八瀬の方へ辿って行った千手丸の後姿が、夜な/\彼の夢の中で、小さく/\遠くへ消えた。
今になって考えれば、見す/\命を落す事に極まって居たものを、無理にも断念させなかったのは、自分にも罪があるような気がするけれども、あの折自分が一緒に行ったら、どんな禍が待って居たゞろうと思うと、彼は己れの幸運を祝福せずには居られなかった。