千手が身に於いては、さるこゝろがまえ初より露ばかりも候わず、その日のゆうぐれ宿坊へ戻り候わんとてすでに雲母越にさしかゝり候おりふし、俄かに物蔭よりおどり出でたる人のさまにて、浅ましゅう口をふたがれ眼をふたがれて何処ともなく舁き行かれそうろうほどのこゝち、佛罰たちどころにいたりて生きながら三途八難に赴くかとおぼえ候いしぞや。
こう云う殊勝な文句もあれば、また思い切って大胆な、「あらおかしやあらおかしや、」と云う言葉を以て書き起した、神をも佛をも憚らぬような一節が見えた。
「あらおかしやあらおかしや、浮世は夢にても幻にても候わず、まことは西方浄土を現じたる安楽国にて候ぞや。